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2016年01月30日

菅原直樹さんインタビュー(2)

菅原直樹さんインタビュー(2)

前回は、菅原さんのお仕事とワークショップ内容についてお伺いしました。
続いては、菅原さんが岡山・和気町に移住し立ち上げた“OiBokkeShi”。
活動を始め、自分自身や地域の変化について語って頂きました。



■介護に演劇が役立つことに気付いたきっかけというのは何だったんですか?

特別養護老人ホームで働き始めたら、仕事が楽しかったんですね。それで、この楽しさって演劇の楽しさに似てるなと思ったんです。なんでだろうといろいろ考えて、最近気づいたのは、なぜ演劇を観るのが好きかといったら、それは生で個性的な人を見たいからなんですよね。で、老人ホームで働いていると生で個性的な人を見放題なので(笑)。
演劇と介護は本当に相性がいいと思います。介護に演劇が役立つこともあるし、演劇に介護が役立つこともあるし。「自分にとって演劇とは何か?」ということと、「自分にとって介護とは何か?」ということが、もしかしたら同じ答えなのかもしれないですね。その答えはまだうまく言葉にすることができていませんが。

ぼくは介護現場で働くようになってから、認知症があんまり怖くなくなってきたんですね。以前は、こんな怖い病気があるのかと思っていました。だって、目の前にいる愛する人が誰だかわからなくなるかもしれないし、青春の大切な思い出をなくしてしまうかもしれない。こんな恐ろしい病気を患ったら生きてても……とかいろいろ考えました。しかし、いまは全くそういうことは思わなくなったんですね。
というのは、認知症の人は確かにいろいろなことができなくなるかもしれませんが、今この瞬間を楽しむことはできる、ということに気づいたからなんですね。関わり方によっては、今この瞬間を楽しむことができる。これって大きな希望だなと思ったんです。
演劇っていう表現形式の最大の特徴は、観客と俳優が「今ここ」を共有して楽しむということです。認知症の人との関わりにおいて演劇の知恵はとても有効だと思います。身体を使ったコミュニケーションゲームや、おかしな言動を受け入れる演技によって、認知症の人と「今ここ」をともに楽しむことができれば、介護はもっと楽しくなるのではないかと考えています。

■認知症の方の話に乗ってみようと思った瞬間というのはあるんですか?

やっぱり気になるじゃないですか?「ご飯の時間ですよ」と声をかけたときに、おばあさんが「いや、これから田植え行くんじゃ」と言うわけですよ(笑)。現実の世界に戻す場合は「いや、もう田んぼはないですよ。それよりご飯食べましょう」という関わり方になりますよね。だけど、このおばあさんが田植えしている姿見たい!とも思うわけですよ(笑)。
介護者には一見問題行動に見えてしまうかもしれませんが、そのおばあさんにとっては「田植え」はアイデンティティを支える大切なものかもしれないですよね。田んぼがなくなっても、生きている限り田植えをしたいと思うわけですよ。ボケを受け入れる演技をすることによって、その人がこれまで何を大切にして生きてきたかとか、そういった人生のストーリーが垣間見えてきます。そして、人生のストーリーを知ることはよりよいケアをするためには必要不可欠です。

お年寄りの人生のストーリーに好奇心を抱く、というのは、演劇をやってきた人間だからなのかなと思いますね。アーティストが介護現場で活動する強みは、そういった部分なのではないかと思います。

■老いと演劇の活動を始めて、自分自身、周囲、そして地域に変化はあったのですか?

岡山・和気町で老いと演劇の活動を始めたとき、地域の方々は、演劇に興味がある、というよりも、町を盛り上げたい、という思いで協力してくださいました。建具屋の市川さんという熱い方がいらっしゃるんですが、その方がぼくと地域を結びつけてくださいました。今は市川さんには舞台監督をしていただいています。演劇は総合芸術と言われるくらいですから、俳優以外にも様々な役割があるので、建具屋さんに舞台美術をお願いしたり、床屋さんにスタイリストをお願いしたり、地域のさまざま方のお力をお借りして活動しています。中には演劇にのめり込んだ方もいて、時計屋の和田さんは今まで演技経験がなかったんですけれど、OiBokkeShiの公演に出演してから俳優として目覚めて、この間は別の団体のミュージカルに出演していました(笑)。

■すごいですね(笑)最初は出演がその方も初めてじゃないですか。抵抗などはありましたか?人前に出るのは恥ずかしいとか。

そうですね。最初は老いと演劇のWSに参加していただきました。老いと演劇のWSは、演劇経験のない方でも楽しめるように、演劇のハードルをかなり低くしました。和気には演劇人口がほとんどいないということがわかっていたので、まずは「介護関係者を老いと演劇のWSを通じて演劇関係者に変えていこう」という目論みがありました。

■介護のWSで、演劇が面白いなという風に変わったということですか?

そうです。実際に介護関係者の方にワークショップで演技をしていただくと、とても上手いんですよ。それはおそらく、普段、介護現場で認知症の人とのコミュニケーションに演技を活かしているからだと思うんですよね。そういう意味では、ぼくがやっていることは介護の現場で当たり前のことなんです。ただ、一般の方には奇異に映ると思いますが。
老いと演劇のWSは、介護を入口にして演劇を身近に感じていただけますし、また、演劇を入口にして介護の楽しさを感じていただけるのではないかなと思います。時計屋の和田さんは演劇と介護のどちらともに興味を持ってくださったので、公演台本を書くときに断りもなく登場人物に「時計屋の和田さん」を登場させたんです。(笑)。

■(笑)

「和田さん、出ることになってますー」って(笑)。

sugawara

■自分自身の変化ってありましたか?

それはあると思います。だって、東京で俳優として演劇活動していたときは、自分が劇団を立ち上げるとは思ってもいませんでしたから。ただ、介護と演劇を結びつけて何かをしようとは思っていたのですが、なかなか踏ん切りがつかなかったんですね。岡山・和気町に移住して、周りに演劇ができる環境があまりなくて、演劇をやるためには自分が動かないとできないぞ、となって、やっと踏ん切りがついたんだと思います。
あと、おかじいとの出会いですよね。老いと演劇のWSに88歳のおじいさんが参加して、演技をしてもらったらとても上手かったんですよ。まぁ、上手いというより、パワーがすごいんですよ。もともと芸事が好きで、定年退職後は憧れの映画俳優を目指して、数々のオーディションを受けてきた人なんですね。今村昌平監督の『黒い雨』『カンゾー先生』にもエキストラとして出演しています。
現在は、認知症の奥さんを在宅で介護をしていて、新聞で老いと演劇のWSの記事を読んで、「認知症の人のボケは正さず、演じて受け止める」という見出しに興味を持って、参加してくれたんです。認知症の奥さんになかなか気持ちが通じず、これまで喧嘩ばかりで、時には頭に血が上って手を出してしまったこともあるそうです。しかし、ワークショップに参加してから、奥さんとの関わりに大好きな演技を活かせることを知って、だいぶ良好な関係を築けるようになったそうです。
僕はこのおじいさんと出会って、まさに老いと演劇を体現している人だなと思ったんですね。このおじいさんと一緒に舞台を作りたい。おかじいは僕のことを出会ったときから「監督」と呼ぶんですよ。おかじいと出会ったことによって「監督」になってしまったわけです(笑)。


———88歳のおじいさん“おかじい”と出会った菅原さん。
新たな発見と共にお芝居をして感じた事とは…



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